錢蒸汽《いつせんじようき》の餘波《よは》來《きた》る、ぴツたり突伏《つツぷ》して了《しま》ふ。危《あぶね》えといふは船頭《せんどう》の聲《こゑ》、ヒヤアと肝《きも》を冷《ひや》す。圖《はか》らざりき、急《せ》かずに/\と二《に》の句《く》を續《つゞ》けるのを聞《き》いて、目《め》を開《ひら》けば向島《むかうじま》なり。それより百花園《ひやくくわゑん》に遊《あそ》ぶ。黄昏《たそがれ》たり。
    萩《はぎ》暮《く》れて薄《すゝき》まばゆき夕日《ゆふひ》かな
 言《い》ひつくすべくもあらず、秋草《あきぐさ》の種々《くさ/″\》數《かぞ》ふべくもあらじかし。北八《きたはち》が此作《このさく》の如《ごと》きは、園内《ゑんない》に散《ちら》ばつたる石碑《せきひ》短册《たんじやく》の句《く》と一般《いつぱん》、難澁《なんじふ》千萬《せんばん》に存《ぞん》ずるなり。
 床几《しやうぎ》に休《いこ》ひ打眺《うちなが》むれば、客《きやく》幾組《いくくみ》、高帽《たかばう》の天窓《あたま》、羽織《はおり》の肩《かた》、紫《むらさき》の袖《そで》、紅《くれなゐ》の裙《すそ》、薄《すゝき》に見《み》え、萩《
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