子《をどりこ》か。
振返《ふりかへ》れば聖天《しやうでん》の森《もり》、待乳《まつち》沈《しづ》んで梢《こずゑ》乘込《のりこ》む三谷堀《さんやぼり》は、此處《こゝ》だ、此處《こゝ》だ、と今戸《いまど》の渡《わたし》に至《いた》る。
出《で》ますよ、さあ早《はや》く/\。彌次《やじ》舷端《ふなばた》にしがみついてしやがむ。北八《きたはち》悠然《いうぜん》とパイレートをくゆらす。乘合《のりあひ》十四五人《じふしごにん》、最後《さいご》に腕車《わんしや》を乘《の》せる。船《ふね》少《すこ》し右《みぎ》へ傾《かたむ》く、はツと思《おも》ふと少《すこ》し蒼《あを》くなる。丁《とん》と棹《さを》をつく、ゆらりと漕出《こぎだ》す。
船頭《せんどう》さん、渡場《わたしば》で一番《いちばん》川幅《かははゞ》の廣《ひろ》いのは何處《どこ》だい。先《ま》づ此處《こゝ》だね。何町位《なんちやうぐらゐ》あるねといふ。唾《つば》乾《かわ》きて齒《は》の根《ね》も合《あ》はず、煙管《きせる》は出《だ》したが手《て》が震《ふる》へる。北八《きたはち》は、にやり/\、中流《ちうりう》に至《いた》る頃《ころほ》ひ一
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