よと北八《きたはち》を促《うなが》し、道《みち》を開《ひら》いて、見晴《みはらし》に上《のぼ》る。名《な》にし負《お》ふ今戸《いまど》あたり、船《ふね》は水《みづ》の上《うへ》を音《おと》もせず、人《ひと》の家《いへ》の瓦屋根《かはらやね》の間《あひだ》を行交《ゆきか》ふ樣《さま》手《て》に取《と》るばかり。水《みづ》も青《あを》く天《てん》も青《あを》し。白帆《しらほ》あちこち、處々《ところ/″\》煙突《えんとつ》の煙《けむり》たなびけり、振《ふり》さけ見《み》れば雲《くも》もなきに、傍《かたはら》には大樹《たいじゆ》蒼空《あをぞら》を蔽《おほ》ひて物《もの》ぐらく、呪《のろひ》の釘《くぎ》もあるべき幹《みき》なり。おなじ臺《だい》に向顱巻《むかうはちまき》したる子守女《こもりをんな》三人《さんにん》あり。身體《からだ》を搖《ゆす》り、下駄《げた》にて板敷《いたじき》を踏鳴《ふみな》らす音《おと》おどろ/\し。其《その》まゝ渡場《わたしば》を志《こゝろざ》す、石段《いしだん》の中途《ちうと》にて行逢《ゆきあ》ひしは、日傘《ひがさ》さしたる、十二ばかりの友禪縮緬《いうぜんちりめん》、踊
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