森《もり》の下《した》の徑《こみち》を行《ゆ》けば、土《つち》濡《ぬ》れ、落葉《おちば》濕《しめ》れり。白張《しらはり》の提灯《ちやうちん》に、薄《うす》き日影《ひかげ》さすも物淋《ものさび》し。苔《こけ》蒸《む》し、樒《しきみ》枯《か》れたる墓《はか》に、門《もん》のみいかめしきもはかなしや。印《しるし》の石《いし》も青《あを》きあり、白《しろ》きあり、質《しつ》滑《なめらか》にして斑《ふ》のあるあり。あるが中《なか》に神婢《しんぴ》と書《か》いたるなにがしの女《ぢよ》が耶蘇教徒《やそけうと》の十字形《じふじがた》の塚《つか》は、法《のり》の路《みち》に迷《まよ》ひやせむ、異國《いこく》の人《ひと》の、友《とも》なきかと哀《あはれ》深《ふか》し。
竹《たけ》の埒《らち》結《ゆ》ひたる中《なか》に、三四人《さんよにん》土《つち》をほり居《ゐ》るあたりにて、路《みち》も分《わか》らずなりしが、洋服《やうふく》着《き》たる坊《ばう》ちやん二人《ふたり》、學校《がくかう》の戻《もどり》と見《み》ゆるがつか/\と通《とほ》るに頼母《たのも》しくなりて、後《あと》をつけ、やがて木《こ》の間《ま》に立《た》つ湯氣《ゆげ》を見《み》れば掛茶屋《かけぢやや》なりけり。
休《やす》ましておくれ、と腰《こし》をかけて一息《ひといき》つく。大分《だいぶ》お暖《あつたか》でございますと、婆《ばゞ》は銅《あかゞね》の大藥罐《おほやくわん》の茶《ちや》をくれる。床几《しやうぎ》の下《した》に俵《たはら》を敷《し》けるに、犬《いぬ》の子《こ》一匹《いつぴき》、其日《そのひ》の朝《あさ》より目《め》の見《み》ゆるものの由《よし》、漸《やつ》と食《しよく》づきましたとて、老年《としより》の餘念《よねん》もなげなり。折《をり》から子《こ》を背《せな》に、御新造《ごしんぞ》一人《いちにん》、片手《かたて》に蝙蝠傘《かうもりがさ》をさして、片手《かたて》に風車《かざぐるま》をまはして見《み》せながら、此《こ》の前《まへ》を通《とほ》り行《ゆ》きぬ。あすこが踏切《ふみきり》だ、徐々《そろ/\》出懸《でか》けようと、茶店《ちやてん》を辭《じ》す。
何《ど》うだ北八《きたはち》、線路《せんろ》の傍《わき》の彼《あ》の森《もり》が鶯花園《あうくわゑん》だよ、畫《ゑ》に描《か》いた天女《てんによ》は賣藥《ば
前へ
次へ
全12ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング