、四つになる女の児と、五つの男の児と、廂合《ひあわい》の星の影に立つて居た。
 顔を見るなり、女房が、
「父《おとっ》さんは帰つたかい。」
 と笑顔して、いそ/\して、優しく云つた。――何が什《ど》うしても、「帰つた。」と言はせるやうにして聞いたのである。
 不可《いけな》い。……
「うゝん、帰りやしない。」
「帰らないわ。」
 と女の児が拗ねでもしたやうに言つた。
 男の児が袖を引いて
「父《おとっ》さんは帰らないけれどね、いつものね、鰻《うなぎ》が居るんだよ。」
「えゝ、え。」
「大きな長い、お鰻よ。」
「こんなだぜ、おつかあ。」
「あれ、およし、魚尺《うおしゃく》は取るもんぢやない――何処にさ……そして?」
 と云ふ、胸の滝は切れ、唾が乾いた。
「台所の手桶に居る。」
「誰が持つて来たの、――魚屋さん?……え、坊や。」
「うゝん、誰だか知らない。手桶の中に充満《いっぱい》になつて、のたくつてるから、それだから、遁《に》げると不可《いけな》いから蓋《ふた》をしたんだ。」
「あの、二人で石をのつけたの、……お石塔《せきとう》のやうな。」
「何だねえ、まあ、お前たちは……」
 と叱る女
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