夜釣
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大勝《だいかつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|暴《あら》びた

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)がた/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 これは、大工、大勝《だいかつ》のおかみさんから聞いた話である。

 牛込築土《うしごめつくど》前の、此の大勝棟梁のうちへ出入りをする、一寸《ちょっと》使へる、岩次《いわじ》と云つて、女房持、小児《こども》の二人あるのが居た。飲む、買ふ、摶《ぶ》つ、道楽は少《すこし》もないが、たゞ性来の釣好きであつた。
 またそれだけに釣がうまい。素人《しろと》にはむづかしいといふ、鰻釣の糸捌《いとさば》きは中でも得意で、一晩出掛けると、湿地で蚯蚓《みみず》を穿《ほ》るほど一かゞりにあげて来る。
「棟梁、二百目が三ぼんだ。」
 大勝の台所口へのらりと投込むなぞは珍しくなかつた。
 が、女房は、まだ若いのに、後生願ひで、おそろしく岩さんの殺生を気にして居た。
 霜月《しもつき》の末頃である。一晩、陽気違ひの生暖
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