「あの、二人《ふたり》で石《いし》をのつけたの、……お石塔《せきたふ》のやうな。」
「何《なん》だねえ、まあ、お前《まへ》たちは……」
と叱《しか》る女房《にようばう》の聲《こゑ》は震《ふる》へた。
「行《い》つてお見《み》よ。」
「お見《み》なちやいよ。」
「あゝ、見《み》るから、見《み》るからね、さあ一所《いつしよ》においで。」
「私《わたい》たちは、父《おとつ》さんを待《ま》つてるよ。」
「出《で》て見《み》まちよう、」
と手《て》を引合《ひきあ》つて、もつれるやうにばら/\と寺《てら》の門《もん》へ駈《か》けながら、卵塔場《らんたふば》を、灯《ともしび》の夜《よる》の影《かげ》に揃《そろ》つて、かはいゝ顏《かほ》で振返《ふりかへ》つて、
「おつかあ、鰻《うなぎ》を見《み》ても觸《さは》つちや不可《いけな》いよ。」
「觸《さは》るとなくなりますよ。」
と云《い》ひすてに走《はし》つて出《で》た。
女房《にようばう》は暗《くら》がりの路地《ろぢ》に足《あし》を引《ひか》れ、穴《あな》へ掴込《つかみこ》まれるやうに、頸《くび》から、肩《かた》から、ちり毛《け》もと、ぞツと氷
前へ
次へ
全12ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング