にそゝられたやうに、頻《しきり》に氣《き》の急《せ》く樣子《やうす》で、いつもの錢湯《せんたう》にも行《ゆ》かず、さく/\と茶漬《ちやづけ》で濟《す》まして、一寸《ちよつと》友《とも》だちの許《とこ》へ、と云《い》つて家《うち》を出《で》た。
 留守《るす》には風《かぜ》が吹募《ふきつの》る。戸障子《としやうじ》ががた/\鳴《な》る。引窓《ひきまど》がばた/\と暗《くら》い口《くち》を開《あ》く。空模樣《そらもやう》は、その癖《くせ》、星《ほし》が晃々《きら/\》して、澄切《すみき》つて居《ゐ》ながら、風《かぜ》は尋常《じんじやう》ならず亂《みだ》れて、時々《とき/″\》むく/\と古綿《ふるわた》を積《つ》んだ灰色《はひいろ》の雲《くも》が湧上《わきあが》る。とぽつりと降《ふ》る。降《ふ》るかと思《おも》ふと、颯《さつ》と又《また》暴《あら》びた風《かぜ》で吹拂《ふきはら》ふ。
 次第《しだい》に夜《よ》が更《ふ》けるに從《したが》つて、何時《いつ》か眞暗《まつくら》に凄《すご》くなつた。
 女房《にようばう》は、幾度《いくど》も戸口《とぐち》へ立《た》つた。路地《ろぢ》を、行願寺《ぎ
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング