《しろうと》にはむづかしいといふ、鰻釣《うなぎつり》の絲捌《いとさば》きは中《なか》でも得意《とくい》で、一晩《ひとばん》出掛《でか》けると濕地《しつち》で蚯蚓《みゝず》を穿《ほ》るほど一《ひと》かゞりにあげて來《く》る。
「棟梁《とうりやう》、二百|目《め》が三ぼんだ。」
大勝《だいかつ》の臺所口《だいどころぐち》へのらりと投込《なげこ》むなぞは珍《めづら》しくなかつた。
が、女房《にようばう》は、まだ若《わか》いのに、後生願《ごしやうねが》ひで、おそろしく岩《いは》さんの殺生《せつしやう》を氣《き》にして居《ゐ》た。
霜月《しもつき》の末頃《すゑごろ》である。一晩《ひとばん》、陽氣違《やうきちが》ひの生暖《なまぬる》い風《かぜ》が吹《ふ》いて、むつと雲《くも》が蒸《む》して、火鉢《ひばち》の傍《そば》だと半纏《はんてん》は脱《ぬ》ぎたいまでに、惡汗《わるあせ》が浸《にじ》むやうな、其《その》暮方《くれがた》だつた。岩《いは》さんが仕事場《しごとば》から――行願寺内《ぎやうぐわんじない》にあつた、――路地《ろぢ》うらの長屋《ながや》へ歸《かへ》つて來《く》ると、何《なに》かもの
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング