んらの挙動をもてわれに答えしやを知らざりき。

       五

「ええと、八円様に不足はないが、どうしてもおまえを遣《や》ることはできないのだ。それもあいつが浮気《うわき》もので、ちょいと色に迷ったばかり、おいやならよしなさい、よそを聞いてみますという、お手軽なところだと、おれも承知をしたかもしれんが、どうしておれが探ってみると、義延《よしのぶ》(巡査の名)という男はそんな男と男が違う。なんでも思い込んだらどうしても忘れることのできない質《たち》で、やっぱりおまえと同一《おんなじ》ように、自殺でもしたいというふうだ。ここでおもしろいて、はははははは」と冷笑《あざわら》えり。
 女《むすめ》は声をふるわして、
「そんなら伯父さん、まあどうすりゃいいのでございます」と思い詰めたる体にて問いぬ。
 伯父は事もなげに、
「どうしてもいけないのだ。どんなにしてもいけないのだ。とてもだめだ、なんにもいうな、たといどうしても肯《き》きゃあしないから、お香、まあ、そう思ってくれ」
 女はわっと泣きだしぬ。渠《かれ》は途中なることをも忘れたるなり。
 伯父は少しも意に介せず、
「これ、一生のうちにた
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