夜行巡査
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)爺《じい》さん

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)人|心地《ごこち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](明治二十八年四月「文芸倶楽部」)
−−

       一

「こう爺《じい》さん、おめえどこだ」と職人体の壮佼《わかもの》は、そのかたわらなる車夫の老人に向かいて問い懸《か》けたり。車夫の老人は年紀《とし》すでに五十を越えて、六十にも間はあらじと思わる。餓えてや弱々しき声のしかも寒さにおののきつつ、
「どうぞまっぴら御免なすって、向後《こうご》きっと気を着けまする。へいへい」
 と、どぎまぎして慌《あわ》ておれり。
「爺さん慌てなさんな。こう己《おり》ゃ巡査じゃねえぜ。え、おい、かわいそうによっぽど面食らったと見える、全体おめえ、気が小さすぎらあ。なんの縛ろうとは謂《い》やしめえし、あんなにびくびくしねえでものことさ。おらあ片一方で聞いててせえ少癇癪《すこかんしゃく》に障《さわ》って堪《こた》えられなかったよ。え、爺さん、聞きゃおめえの扮装《
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