なって、身体《からだ》のぶるぶると震う一樹の袖を取った、私の手を、その帷子《かたびら》が、落葉、いや、茸のような触感で衝《つ》いた。
 あの世話方の顔と重《かさな》って、五六人、揚幕から。切戸口にも、楽屋の頭《かしら》が覗《のぞ》いたが、ただ目鼻のある茸になって、いかんともなし得ない。その二三秒時よ。稲妻の瞬く間よ。
 見物席の少年が二三人、足袋を空に、逆《さかさ》になると、膝までの裙《すそ》を飜《ひるがえ》して仰向《あおむけ》にされた少女がある。マッシュルームの類であろう。大人は、立構えをし、遁身《にげみ》になって、声を詰めた。
 私も立とうとした。あの舞台の下は火になりはしないか。地震、と欄干につかまって、目を返す、森を隔てて、煉瓦《れんが》の建《たて》もの、教会らしい尖塔《せんとう》の雲端に、稲妻が蛇のように縦にはしる。
 静寂、深山に似たる時、這う子が火のつくように、山伏の裙《すそ》を取って泣出した。
 トウン――と、足拍子を踏むと、膝を敷き、落した肩を左から片膚《かたはだ》脱いだ、淡紅の薄い肌襦袢《はだじゅばん》に膚が透く。眉をひらき、瞳を澄まして、向直って、
「幹次郎さん。
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