見て、口で、ニヤリと笑う。
悚然《ぞっ》とした。
「鷺流?」
這う子は早い。谿河《たにがわ》の水に枕なぞ流るるように、ちょろちょろと出て、山伏の裙《もすそ》に絡《まつ》わると、あたかも毒茸が傘の轆轤《ろくろ》を弾《はじ》いて、驚破す、取て噛《か》もう、とあるべき処を、――
「焼き食おう!」
と、山伏の、いうと斉《ひと》しく、手のしないで、数珠を振《ふる》って、ぴしりと打って、不意に魂消《たまげ》て、傘なりに、毒茸は膝をついた。
返す手で、
「焼きくおう。焼きくおう。」
鼻筋鋭く、頬は白澄《しろず》む、黒髪は兜巾《ときん》に乱れて、生競《はえきそ》った茸の、のほのほと並んだのに、打振《うちふる》うその数珠は、空に赤棟蛇《やまかがし》の飛ぶがごとく閃《ひらめ》いた。が、いきなり居すくまった茸の一つを、山伏は諸手《もろて》に掛けて、すとんと、笠を下に、逆《さかさ》に立てた。二つ、三つ、四つ。――
多くは子方だったらしい。恐れて、魅《み》せられたのであろう。
長上下《なががみしも》は、脇座にとぼんとして、ただ首の横ざまに傾きまさるのみである。
「一樹さん。」
真蒼《まっさお》に
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