そぶ》き、息吹《いぶ》きを放ち、毒を嘯いて、「取て噛《か》もう、取て噛もう。」と躍りかかる。取着き引着《ひッつ》き、十三の茸は、アドを、なやまし、嬲《なぶ》り嬲り、山伏もともに追込むのが定《じょう》であるのに。――
「あれへ、毒々しい半びらきの菌《きのこ》が出た、あれが開いたらばさぞ夥多《おびただ》しい事であろう。」
山伏の言《ことば》につれ、件《くだん》の毒茸《どくたけ》が、二の松を押す時である。
幕の裙《すそ》から、ひょろりと出たものがある。切禿《きりかむろ》で、白い袖を着た、色白の、丸顔の、あれは、いくつぐらいだろう、這《は》うのだから二つ三つと思う弱々しい女の子で、かさかさと衣《き》ものの膝ずれがする。菌《きのこ》の領した山家《やまが》である。舞台は、山伏の気が籠《こも》って、寂《しん》としている。ト、今まで、誰一人ほとんど跫音《あしおと》を立てなかった処へ、屋根は熱し、天井は蒸して、吹込む風もないのに、かさかさと聞こえるので、九十九折《つづらおり》の山路へ、一人、篠《しの》、熊笹を分けて、嬰子《あかご》の這出《はいだ》したほど、思いも掛けねば無気味である。
ああ、山伏を
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