ろ編笠、名の知れぬ、菌《きのこ》ども。笠の形を、見物は、心のままに擬《なぞ》らえ候え。
「――あれあれ、」
女山伏の、優しい声して、
「思いなしか、茸の軸に、目、鼻、手、足のようなものが見ゆる。」
と言う。詞《ことば》につれて、如法の茸どもの、目を剥《む》き、舌を吐いて嘲《あざ》けるのが、憎く毒々しいまで、山伏は凛《りん》とした中《うち》にもかよわく見えた。
いくち、しめじ、合羽《かっぱ》、坊主、熊茸、猪茸《ししたけ》、虚無僧茸《こむそうたけ》、のんべろ茸、生える、殖《ふ》える。蒸上り、抽出《ぬきいで》る。……地蔵が化けて月のむら雨に托鉢《たくはつ》をめさるるごとく、影|朧《おぼろ》に、のほのほと並んだ時は、陰気が、緋《ひ》の毛氈《もうせん》の座を圧して、金銀のひらめく扇子《おうぎ》の、秋草の、露も砂子も暗かった。
女性の山伏は、いやが上に美しい。
ああ、窓に稲妻がさす。胸がとどろく。
たちまち、この時、鬼頭巾に武悪の面して、極めて毒悪にして、邪相なる大茸が、傘を半開きに翳《かざ》し、みしと面《つら》をかくして顕《あら》われた。しばらくして、この傘を大開きに開く、鼻を嘯《う
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