《ほうがん》に、むしろ新中納言が山伏に出立《いでた》った凄味《すごみ》があって、且つ色白に美しい。一二の松も影を籠《こ》めて、袴《はかま》は霧に乗るように、三密の声は朗らかに且つ陰々として、月清く、風白し。化鳥《けちょう》の調の冴《さ》えがある。
「ああ、婦人だ。……鷺流《さぎりゅう》ですか。」
 私がひそかに聞いたのに、
「さあ。」
 一言いったきり、一樹が熟《じっ》と凝視《みつ》めて、見る見る顔の色がかわるとともに、二度ばかり続け様に、胸を撫《な》でて目をおさえた。
 先を急ぐ。……狂言はただあら筋を言おう。舞台には茸の数が十三出る。が、実はこの怪異を祈伏《いのりふ》せようと、三山の法力を用い、秘密の印《いん》を結んで、いら高の数珠を揉《も》めば揉むほど、夥多《おびただ》しく一面に生えて、次第に数を増すのである。
 茸は立衆《たてしゅう》、いずれも、見徳、嘯吹《うそのふき》、上髭《うわひげ》、思い思いの面を被《かぶ》り、括袴《くくりばかま》、脚絆《きゃはん》、腰帯、水衣《みずぎぬ》に包まれ、揃って、笠を被る。塗笠、檜笠《ひのきがさ》、竹子笠、菅《すげ》の笠。松茸、椎茸、とび茸、おぼ
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