脚気は喘《あえ》いで、白い舌を舐《な》めずり、政治狂は、目が黄色に光り、主人《あるじ》はけらけらと笑った。皆逆立ちです。そして、お雪さんの言葉に激《はげ》まされたように、ぐたぐたと肩腰をゆすって、逆《さかさま》に、のたうちました。
 ひとりでに、頭のてっぺんへ流れる涙の中《うち》に、網の初茸が、同じように、むくむくと、笠軸を動かすと、私はその下に、燃える火を思った。
 皆、咄嗟《とっさ》の間、ですが、その、廻っている乳が、ふわふわと浮いて、滑らかに白く、一列に並んだように思う……
(心配しないでね。)
 と莞爾《にっこり》していった、お雪さんの言《ことば》が、逆《さかさ》だから、(お遁《に》げ、危《あぶな》い。)と、いうように聞えて、その白い菩薩の列の、一番|框《かまち》へ近いのに――導かれるように、自分の頭と足が摺《ず》って出ると、我知らず声を立てて、わッと泣きながら遁出《にげだ》したんです。
 路地口の石壇を飛上り、雲の峰が立った空へ、桟橋のような、妻恋坂の土に突立った、この時ばかり、なぜか超然として――博徒なかまの小僧でない。――ひとり気が昂《あが》ると一所に、足をなぐように、腰
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