じゃ。)
と政治狂が、柱へ、うんと搦《から》んで、尻を立てた。
(ぼくは、はや、この方が楽で、もう遣っとるが。)
と、水浸しの丸太のような、脚気の足を、襖《ふすま》の破《や》れ桟に、ぶくぶくと掛けている。
(幹もやれよ。)
と主人《あるじ》が、尻で尺蠖虫《しゃくとりむし》をして、足をまた突張《つっぱ》って、
(成程、気がかわっていい、茸は焼けろ、こっちはやけだ。)
その挙げた足を、どしんと、お雪さんの肩に乗せて、柔かな細頸《ほそくび》をしめた時です。
(ああ、ひもじいを逆《さかさ》にすれば、おなかが、くちいんだわね。)
と真俯向《まうつむ》けに、頬を畳に、足が、空で一つに、ひたりとついて、白鳥が目を眠ったようです。
ハッと思うと、私も、つい、脚を天井に向けました。――その目の前で、
(男は意気地がない、ぐるぐる廻らなくっちゃあ。)
名工のひき刀が線を青く刻んだ、小さな雪の菩薩《ぼさつ》が一体、くるくると二度、三度、六地蔵のように廻る……濃い睫毛《まつげ》がチチと瞬いて、耳朶《みみたぶ》と、咽喉《のど》に、薄紅梅の血が潮《さ》した。
(初茸と一所に焼けてしまえばいい。)
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