、泥石の紙の盤で、碁を打っていたんですがね。
欠けた瀬戸火鉢は一つある。けれども、煮ようたって醤油《しょうゆ》なんか思いもよらない。焼くのに、炭の粉《こ》もないんです。政治狂が便所わきの雨樋《あまどい》の朽ちた奴を……一雨ぐらいじゃ直ぐ乾く……握り壊して来る間に、お雪さんは、茸に敷いた山草を、あの小石の前へ挿しましたっけ。古新聞で火をつけて、金網をかけました。処で、火気は当るまいが、溢出《はみで》ようが、皆|引掴《ひッつか》んで頬張る気だから、二十ばかり初茸《はつたけ》を一所に載せた。残らず、薄樺色《うすかばいろ》の笠を逆《さかさ》に、白い軸を立てて、真中《まんなか》ごろのが、じいじい音を立てると、……青い錆《さび》が茸の声のように浮いて動く。
(塩はどうした。)
(ござんせん。)
(魚断《うおだち》、菜断《さいだち》、穀断《こくだち》と、茶断《ちゃだち》、塩断《しおだち》……こうなりゃ鯱立《しゃっちょこだ》ちだ。)
と、主人《あるじ》が、どたりと寝て、両脚を大の字に開くと、
(あああ、待ちたまえ、逆《さかさ》になった方が、いくらか空腹《ひだる》さが凌《しの》げるかも知れんぞ。経験
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