切って放すと、枝も葉も萎々《なえなえ》となって、ばたり。で、国のやみが明《あかる》くなった――そんな意味だったと思います。言葉は気をつけなければ不可《いけ》ませんね。
 食不足で、ひくひく煩っていた男の児《こ》が七転八倒します。私は方々の医師《いしゃ》へ駆附けた。が、一人も来ません。お雪さんが、抱いたり、擦《さす》ったり、半狂乱でいる処へ、右の、ばらりざんと敗北した落武者が這込《はいこ》んで来た始末で……その悲惨さといったらありません。
 食あたりだ。医師《いしゃ》のお父さんが、診察をしたばかりで、薮《やぶ》だからどうにも出来ない。あくる朝なくなりました。きらずに煮込んだ剥身《むきみ》は、小指を食切るほどの勢《いきおい》で、私も二つ三つおすそわけに預るし、皆も食べたんですから、看板の※[#「魚+是」、第4水準2−93−60]《しこ》のせいです。幾月ぶりかの、お魚だから、大人は、坊やに譲ったんです。その癖、出がけには、坊や、晩には玉子だぞ。お土産は電車だ、と云って出たんですのに。――
 お雪さんは、歌磨の絵の海女《あま》のような姿で、鮑《あわび》――いや小石を、そッと拾っては、鬼門をよけ
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