た雨落《あまおち》の下へ、積み積みしていたんですね。
(――かなしいなあ――)
めそめそ泣くような質《たち》ではないので、石も、日も、少しずつ積りました。
――さあ、その残暑の、朝から、旱《て》りつけます中へ、端書《はがき》が来ましてね。――落目もこうなると、めったに手紙なんぞ覗《のぞ》いた事のないのに、至急、と朱がきのしてあったのを覚えています。ご新姐あてに、千葉から荷が着いている。お届けをしようか、受取りにおいで下さるか、という両国辺の運送問屋から来たのでした。
品物といえば釘の折でも、屑屋《くずや》へ売るのに欲《ほし》い処。……返事を出す端書が買えないんですから、配達をさせるなぞは思いもよらず……急いで取りに行く。この使《つかい》の小僧ですが、二日ばかりというもの、かたまったものは、漬菜《つけな》の切れはし、黒豆一粒入っていません。ほんとうのひもじさは、話では言切れない、あなた方の腹がすいたは、都合によってすかせるのです。いいえ、何も喧嘩をするのじゃありません、おわかりにならんと思いますから、よしますが。
もっとも、その前日も、金子《かね》無心の使に、芝の巴町《ともえちょ
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