うですが、凄《すご》いでしょう。……事実なんです。貞操の徴《しるし》と、女の生命とを預けるんだ。――(何とかじゃ築地へ帰《けえ》られねえ。)――何の事だかわかりませんがね、そういって番頭を威《おど》かせ、と言いつかった通り、私が(一樹、幹次郎、自分をいう。)使《つかい》に行ったんです。冷汗《ひやあせ》を流して、談判の結果が三分、科学的に数理で顕《あらわ》せば、七十と五銭ですよ。
お雪さんの身になったらどうでしょう。じか肌と、自殺を質に入れたんですから。自殺を質に入れたのでは、死ぬよりもつらいでしょう。――
――当時、そういった様子でしてね。質の使、笊《ざる》でお菜漬《はづけ》の買ものだの、……これは酒よりは香《におい》が利きます。――はかり炭、粉米《こごめ》のばら銭買の使いに廻らせる。――わずかの縁に縋《すが》ってころげ込んだ苦学の小僧、(再び、一樹、幹次郎自分をいう。)には、よくは、様子は分らなかったんですが、――ちゃら金の方へ、鴨《かも》がかかった。――そこで、心得のある、ここの主人《あるじ》をはじめ、いつもころがり込んでいる、なかまが二人、一人は検定試験を十年来落第の中老の才
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