、畚褌の上へ引張《ひっぱ》らせると、脊は高し、幅はあり、風采《ふうさい》堂々たるものですから、まやかし病院の代診なぞには持って来いで、あちこち雇われもしたそうですが、脉《みゃく》を引く前に、顔の真中《まんなか》を見るのだから、身が持てないで、その目下の始末で。……
 変に物干ばかり新しい、妻恋坂下へ落ちこぼれたのも、洋服の月賦払《げっぷばらい》の滞《とどこおり》なぞから引《ひっ》かかりの知己《ちかづき》で。――町の、右の、ちゃら金のすすめなり、後見なり、ご新姐の仇《あだ》な処をおとりにして、碁会所を看板に、骨牌賭博《かるたばくち》の小宿《こやど》という、もくろみだったらしいのですが、碁盤の櫓《やぐら》をあげる前に、長屋の城は落ちました。どの道落ちる城ですが、その没落をはやめたのは、慾《よく》にあせって、怪しい企《たくらみ》をしたからなんです。
 質の出入れ――この質では、ご新姐の蹴出し……縮緬《ちりめん》のなぞはもう疾《とっ》くにない、青地のめりんす、と短刀|一口《ひとふり》。数珠一|聯《れん》。千葉を遁げる時からたしなんだ、いざという時の二品《ふたしな》を添えて、何ですか、三題話のよ
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