の客の不作法さは、場所にはよろうが、芝居にも、映画場にも、場末の寄席にも比較しようがないほどで。男も女も、立てば、座《すわ》ったものを下人《げにん》と心得る、すなわち頤《あご》の下に人間はない気なのだそうである。
 中にも、こども服のノーテイ少女、モダン仕立ノーテイ少年の、跋扈跳梁《ばっこちょうりょう》は夥多《おびただ》しい。……
 おなじ少年が、しばらくの間に、一度は膝を跨《また》ぎ、一度は脇腹を小突き、三度目には腰を蹴つけた。目まぐろしく湯呑所《ゆのみじょ》へ通ったのである。
 一樹が、あの、指を胸につけ、その指で、左の目をおさえたと思うと、
「毬栗《いがぐり》は果報ものですよ。」
 私を見て苦笑《にがわらい》しながら、羽織でくるくると夏帽子を包んで、みしと言わせて、尻にかって、投膝に組んで掌《てのひら》をそらした。
「がきに踏まれるよりこの方がさばさばします。」
 何としても、これは画工《えかき》さんのせいではない――桶屋《おけや》、鋳掛屋でもしたろうか?……静かに――それどころか!……震災|前《ぜん》には、十六七で、渠《かれ》は博徒の小僧であった。
 ――家、いやその長屋は、妻
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