満ち富貴《ふっき》にして――
    男金女土こそ大吉よ
    衣食みちみち…………
 と歌の方も衣食みちみちのあとは、虫蝕《むしくい》と、雨染《あまじ》みと、摺剥《すりむ》けたので分らぬが、上に、業平《なりひら》と小町のようなのが対向《さしむか》いで、前に土器《かわらけ》を控えると、万歳烏帽子《まんざいえぼし》が五人ばかり、ずらりと拝伏した処が描いてある。いかさまにも大吉に相違ない。
 主税は、お妙の背後《うしろ》姿を見送って、風が染みるような懐手で、俯向《うつむ》き勝ちに薬師堂の方へ歩行《ある》いて来て、ここに露店の中に、三世相がひっくりかえって、これ見よ、と言わないばかりなのに目が留まって、漫《そぞろ》に手に取って、相性の処を開けたのであった。
 その英吉が、金の性《しょう》、お妙が、土性であることは、あらかじめお蔦が美《うつくし》い指の節から、寅卯戌亥《とらういぬい》と繰出したものである。
 半吉ででもある事か、大《おおい》に吉《よし》は、主税に取って、一向に芽出度《めでたく》ない。勿論、いかに迷えば、と云って、三世相を気にするような男ではないけれども、自分はとにかく、先生は
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