、身を固めて行《ゆ》く態《ふり》の、その円髷の大《おおき》いのも、かかる折から頼もしい。
煙草屋の店でくるくるぱちぱち、一打《いちダアス》ばかりの眼球《めのたま》の中を、仕切《しきっ》て、我身でお妙を遮るように、主税は真中へ立ったから、余り人目に立つので、こなたから進んで出て、声を掛けるのは憚《はばか》って差控えた。
そうしてお妙が気が付かないで、すらすらと行過ぎたのが、主税は何となく心寂しかった。つい前《さき》の年までは、自分が、ああして附いて出たに。
とリボンが靡《なび》いて、お妙は立停まった。
肩が離れて、大《おおき》な白足袋の色新しく、附木《つけぎ》を売る女房のあわれな灯《ともしび》に近《ちかづ》いたのは円髷で。実直ものの丁寧に、屈《かが》み腰になって手を出したは、志を恵んだらしい。親子が揃って額《ぬか》ずいた時、お妙の手の巾着《きんちゃく》が、羽織の紐の下へ入って、姿は辻の暗がりへ。
書生たちは、ぞろぞろと煙草屋の軒を出て、斉《ひとし》く星を仰いだのである。
二十九
○男金女土《おとこかねおんなつち》大《おおい》に吉《よし》、子五人か九人あり衣食
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