が分れたかと一同に立騒いで、よう、と声を懸ける、万歳、と云う、叱《しっ》、と圧《おさ》えた者がある。
 向うの真砂町の原は、真中あたり、火定の済んだ跡のように、寂しく中空へ立つ火気を包んで、黒く輪になって人集《ひとだか》り。寂寞《ひっそり》したその原のへりを、この時通りかかった女が二人。
 主税は一目見て、胸が騒いだ。右の方のが、お妙である。
 リボンも顔も単《ひとえ》に白く、かすりの羽織が夜の艶《つや》に、ちらちらと蝶が行交う歩行《あるき》ぶり、紅《くれない》ちらめく袖は長いが、不断着の姿は、年も二ツ三ツ長《た》けて大人びて、愛らしいよりも艶麗《あでやか》であった。
 風呂敷包を左手《ゆんで》に載せて、左の方へ附いたのは、大一番の円髷《まるまげ》だけれども、花簪《はなかんざし》の下になって、脊が低い。渾名を鮹《たこ》と云って、ちょんぼりと目の丸い、額に見上げ皺《じわ》の夥多《おびただ》しい婦《おんな》で、主税が玄関に居た頃勤めた女中《おさん》どん。
 心懸けの好《い》い、実体《じってい》もので、身が定まってからも、こうした御機嫌うかがいに出る志。お主《しゅう》の娘に引添《ひっそ》うて
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