婦系図
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)美《うつくし》い

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一段|下流《しもながし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+愛」、第3水準1−15−23]
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     鯛、比目魚

       一

 素顔に口紅で美《うつくし》いから、その色に紛《まが》うけれども、可愛い音《ね》は、唇が鳴るのではない。お蔦《つた》は、皓歯《しらは》に酸漿《ほおずき》を含んでいる。……
「早瀬の細君《レコ》はちょうど(二十《はたち》)と見えるが三だとサ、その年紀《とし》で酸漿を鳴らすんだもの、大概素性も知れたもんだ、」と四辺《あたり》近所は官員《つとめにん》の多い、屋敷町の夫人《おくさま》連が風説《うわさ》をする。
 すでに昨夜《ゆうべ》も、神楽坂の縁日に、桜草を買ったついでに、可《い》いのを撰《よ》って、昼夜帯の間に挟んで帰った酸漿を、隣家《となり》の娘――女学生に、一ツ上げましょう、と言って
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