ごとく、弟のごときものであることさえ分ったので、先んずれば人を制すで、ぴたりとその口を圧《おさ》えたのであろう。
 讒口《なかぐち》は決して利かない、と早瀬は自分も言ったが、またこの門生の口一ツで、見事、纏《まとま》る縁も破ることは出来たのだったに。
 ここで賽《さい》は河野の手に在矣《ありい》。ともかくもソレ勝負、丁か半かは酒井家の意志の存する処に因るのみとぞなんぬる。
 先生が不承知を言えばだけれども、諾、とあればそれまで。お妙は河野英吉の妻になるのである。河野英吉の妻にお妙がなるのであるか。
 お蔦さえ、憂慮《きづか》うよりむしろ口惜《くやし》がって、ヤイヤイ騒ぐから、主税の、とつおいつは一通りではない。何は措《おい》ても、余所《よそ》ながら真砂町の様子を、と思うと、元来お蔦あるために、何となく疵《きず》持足、思いなしで敷居が高い。
 で何となく遠のいて、ようよう二日前に、久しぶりで御機嫌|窺《うかが》いに出た処、悪くすると、もう礼之進が出向いて、縁談が始まっていそうな中へ、急に足近くは我ながら気が咎める。
 愚図々々《ぐずぐず》すれば、貴郎《あなた》例《いつも》に似合わない、き
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