ず》を撒《ま》きかけてこの一芸に見惚れたお源が、さしったりと、手でしゃくって、ざぶりと掛けると、おかしな皮の臭がして、そこら中水だらけ。
二十七
それ熟々《つらつら》、史を按《あん》ずるに、城なり、陣所、戦場なり、軍《いくさ》は婦《おんな》の出る方が大概|敗《ま》ける。この日、道学先生に対する語学者は勝利でなく、礼之進の靴は名誉の負傷で、揚々と引挙げた。
ゆえ如何《いかん》となれば、お厭《いや》とあれば最早紹介は求めますまい、そのかわりには、当方から酒井家へ申入れまする、この縁談に就きまして、貴方《あなた》から先生に向って、河野に対する御非難をなされぬよう。御意見は御意見、感情問題は別として、これだけはお願い申したいでごわりまするが、と婉曲に言いは言ったが、露骨に遣《や》ったら、邪魔をする勿《なかれ》であるから、御懸念無用と、男らしく判然《はっきり》答えたは可いけれども、要するに釘を刺されたのであった。
礼之進の方でも、酒井へ出入りの車夫《くるまや》まで捜《さぐり》を入れた程だから、その分は随分手が廻って、従って、先生が主税に対する信用の点も、情愛のほども、子の
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