もの事だ、またそれにしても、モオニング着用は何事だと、苦々しさ一方ならず。
曲角の漬物屋、ここいらへも探偵《いぬ》が入ったろうと思うと、筋向いのハイカラ造りの煙草屋がある。この亭主もベラベラお饒舌《しゃべり》をする男だが、同じく申上げたろう、と通りがかりに睨《にら》むと、腰かけ込んだ学生を対手《あいて》に、そのまた金歯の目立つ事。
内へ帰ると、お蔦はお蔦で、その晩出直して、今度は自分が売卜《うらない》の前へ立つと、この縁はきっと結ばる、と易が出たので、大きに鬱《ふさ》ぐ。
もっとも売卜者も如才はない。お源が行ったのに較べれば、容子を見ただけでも、お蔦の方が結ばるに違いないから。
一日|措《お》いて、主税が自分|嘱《たの》まれのさる学校の授業を済まして帰って来ると、門口にのそりと立って、頤《あご》を撫でながら、じろじろ門札を視《なが》めていたのが、坂田礼之進。
早やここから歯をスーと吸って、先刻《さっき》からお待ち申して……はちと変だ。
さては誰も物申《ものもう》に応うるものが無かったのであろう。女中《おんな》は外出《そとで》で? お蔦は隠れた。……
無人《ぶにん》で失礼。
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