るように鮑《あわび》がちょうど可い、と他愛もない。
馬鹿を云え、縁談の前《さき》へ立って、讒口《なかぐち》なんぞ利こうものなら、己《おれ》の方が勘当だ、そんな先生でないのだから、と一言にして刎《は》ねられた、柳橋の策|不被用焉《もちいられず》。
また考えて見れば、道学者の説を待たずとも、河野家に不都合はない。英吉とても、ただちとだらしの無いばかり、それに結婚すれば自然治まる、と自分も云えば、さもあろう。人の前で、母様《かあさん》と云おうが、父様《とうさま》と云おうが、道義上あえて差支《さしつかえ》はない、かえって結構なくらいである。
そのこれを難ずるゆえんは……曰く……言い難しだから、表向きはどこへも通らぬ。
困ったな、と腕を組めば、困りましたねえ、とお蔦も鬱《ふさ》ぐ。
ここへ大いなる福音を齎《もた》らし来ったのはお源で。
手廻りの使いに遣《や》ったのに、大分後れたにもかかわらず、水口の戸を、がたひし勢《いきおい》よく、唯今《ただいま》帰りました、あの、御新造様《ごしんぞさん》、大丈夫でございます。
明後日《あさって》出来るのかい、とお蔦がきりもりで、夏の掻巻《かいまき
前へ
次へ
全428ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング