と云う風説《うわさ》を聞く。その袖を曳《ひ》いたり、手を握ったりするのが、いわゆる男女交際的で、この男の余徳《ほまち》であろう。もっとも出来た験《ためし》はない。蓋《けだ》しせざるにあらず能《あた》わざるなりでも何でも、道徳は堅固で通る。於爰乎《ここにおいてか》、品行方正、御媒妁人《おなこうど》でも食って行《ゆ》かれる……

       二十四

 道学先生の、その坂田礼之進であるから、少くともめ[#「め」に傍点]組が出入りをするような家庭? へ顔出しをする筈《はず》がない。と一度《ひとたび》は怪《あやし》んだが、偶然《ふと》河野の叔父に、同一《おなじ》道学者|何某《なにがし》の有るのに心付いて、主税は思わず眉を寄せた。
 諸家お出入りの媒妁人、ある意味における地者稼《じものかせぎ》の冠たる大家、さては、と早やお妙の事が胸に応えて、先ずともかくも二階へ通すと、年配は五十ばかり。推《お》しものの痘痕《あばた》は一目見て気の毒な程で、しかも黒い。字義をもって論ずると月下氷人でない、竈下《かまのした》炭焼であるが、身躾《みだしなみ》よく、カラアが白く、磨込んだ顔がてらてらと光る。地《じ》
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