の透く髪を一筋|梳《すき》に整然《きちん》と櫛を入れて、髯の尖《さき》から小鼻へかけて、ぎらぎらと油ぎった処、いかにも内君が病身らしい。
さて、お初にお目に懸《かか》りまする、いかがでごわりまするか、ますます御翻訳で、とさぞ食うに困って切々稼ぐだろう、と謂《い》わないばかりな言《こと》を、けろりとして世辞に云って、衣兜《かくし》から御殿持の煙草入、薄色の鉄の派手な塩瀬に、鉄扇かずらの浮織のある、近頃行わるる洋服持。どこのか媒妁人した御縁女の贈物らしく、貰った時の移香を、今かく中古《ちゅうぶる》に草臥《くたび》れても同一《おなじ》香《におい》の香水で、追《おっ》かけ追かけ香《にお》わせてある持物を取出して、気になるほど爪の伸びた、湯が嫌《きらい》らしい手に短い延《のべ》の銀|煙管《ぎせる》、何か目出度い薄っぺらな彫《ほり》のあるのを控えながら、先ず一ツ奥歯をスッと吸って、寛悠《ゆっくり》と構えた処は、生命保険の勧誘も出来そうに見えた。
甚だ突然でごわりまするが、酒井俊蔵氏令嬢の儀で……ごわりまして、とまたスッと歯せせりをする。
それ、えへん! と云えば灰吹と、諸礼|躾方《しつけかた
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