イと出掛けた様子も、その縁談を聞いた耳を、水道の水で洗わんと欲する趣があった。
本来だと、朋友《ともだち》が先生の令嬢を娶《めと》りたいに就いて、下聴《したぎき》に来たものを、聞かせない、と云うも依怙地《いこじ》なり、料簡《りょうけん》の狭い話。二才らしくまた何も、娘がくれた花だといって、人に惜むにも当らない。この筆法をもってすれば、情婦《いろ》から来た文殻《ふみがら》が紛込《まぎれこ》んだというので、紙屑買を追懸《おっか》けて、慌てて盗賊《どろぼう》と怒鳴り兼ねまい。こちの人|措《お》いて下さんせ、と洒落《しゃれ》にも嗜《たしな》めてしかるべき者までが、その折から、ちょいと留女の格で早瀬に花を持《もた》せたのでも、河野|一家《いっけ》に対しては、お蔦さえ、如何《いかん》の感情を持つかが明かに解る。
それは英吉と、内の人の結婚に対する意見の衝突の次第を、襖の蔭で聴取ったせいもあろう。
そうでなくっても、惚れそうな芸妓《げいしゃ》はないか。新学士に是非と云って、達引《たてひ》きそうな朋輩はないか、と煩《うるさ》く尋ねるような英吉に、厭《いや》なこった、良人《うちの》が手を支《つ》い
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