てものを言う大切なお嬢さんを、とお蔦はただそれだけでさえ引退《ひっさが》る。処へ、幾条《いくすじ》も幾条も家《うち》中の縁の糸は両親で元緊《もとじめ》をして、颯《さっ》さらりと鵜縄《うなわ》に捌《さば》いて、娘たちに浮世の波を潜《くぐ》らせて、ここを先途と鮎《あゆ》を呑ませて、ぐッと手許へ引手繰《ひったぐ》っては、咽喉《のど》をギュウの、獲物を占め、一門一家《いちもんいっけ》の繁昌を企むような、ソンな勘作の許《とこ》へお嬢さんを嫁《や》られるもんか。
 いいえ、私が肯《き》かないわ、とお源をつかまえて談ずる処へ、熱《い》い湯だった、といくらか気色を直して、がたひし、と帰って来た主税に、ちょいとお前さん、大丈夫なんですか、とお蔦の方が念を入れたほどの勢《いきおい》。

       二十三

 何が大丈夫だか、主税には唐突《だしぬけ》で、即座には合点《がってん》しかねるばかり、お蔦の方の意気込が凄《すさま》じい。
 まだ、取留めた話ではなし、ただ学校で見初めた、と厭らしく云う。それも、恋には丸木橋を渡って落ちてこそしかるべきを、石の橋を叩いて、杖《ステッキ》を支《つ》いて渡ろうとする縁談
前へ 次へ
全428ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング