の妹たちは、皆学士を釣る餌だ。」
「餌でも可い、構わんね。藤原氏の為だもの。一人や二人|犠牲《ぎせい》が出来ても可いが、そりゃ大丈夫心配なしだ。親たちの目は曇りやしない。
 次第々々に地位を高めようとするんだから、奇才俊才、傑物は不可《いか》ん。そういうのは時々失敗を遣る。望む処は凡才で間違いの無いのが可いのだ。正々堂々の陣さ、信玄流です。小豆長光を翳《かざ》して旗下へ切込むようなのは、快は快なりだが、永久持重の策にあらず……
 その理想における河野家の僕が中心なんだろう。その中心に据《すわ》ろうという妻《さい》なんだから、大《おおい》に慎重の態度を取らんけりゃならんじゃないか。詰り一家《いっけ》の女王《クウィイン》なんだから、」
 河野は、渠《かれ》がいわゆる正々堂々として説くこと一条。その理想における根ざしの深さは、この男の口から言っても、例の愚痴のように聞えるのや、その落着かない腰には似ない、ほとんど動かすべからざる、確乎としたものであった。
「いや、よく解った、成程その主義じゃ、人の娘の体格検査をせざあなるまい。しかし私は厭《いや》だ! 私の娘なら断るよ、たとい御試験には及第を
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