致しましても、」
と冷かに笑うと、河野は人物に肖《に》ず、これには傲然《ごうぜん》として、信ずる処あるごとく、合点《のみこ》んだ笑い方をして、
「でも、条件さえ通過すれば、僕は娶《もら》うよ。ははは、きっと貰うね、おい、一本貰って行くぜ。」
と脱兎のごとく、かねて計っていたように、この時ひょいと立つと、肩を斜めに、衣兜《かくし》に片手を突込んだまま、急々《つかつか》と床の間に立向うて、早や手が掛った、花の矢車。
片膝立てて、颯《さっ》と色をかえて、
「不可《いけな》いよ。」
「なぜかい?」
と済まして見返る。主税は、ややあせった気味で、
「なぜと云って、」
「はははは、そこが、肝心な処だ、と母様が云ったんだ。」
と突立ったまま、ニヤリとして、
「早瀬、君がどうかしているんじゃないか、ええ、おい、妙子を。」
二十一
冷《れい》か、熱か、匕首《ひしゅ》、寸鉄にして、英吉のその舌の根を留めようと急《あせ》ったが、咄嗟《とっさ》に針を吐くあたわずして、主税は黙って拳《こぶし》を握る。
英吉は、ここぞ、と土俵に仕切った形で、片手に花の茎《じく》を引掴《ひッつか》み
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