、見合をしたの、としばしば聞かされるのが一々勘定はせんけれども、ざっと三十ぐらいあった。その内、君が、自分で断ったのは一ツもあるまい。皆母さんがこう云った。叔父さんが、ああだ、父さんが、それだ、と難癖を附けちゃ破談だ。
 君の一家《いっけ》は、およそどのくらいな御門閥《ごもんばつ》かは知らん。河野から縁談を申懸けられる天下の婦人は、いずれも恥辱を蒙るようで、かねて不快に堪えんのだ。
 昔の国守大名が絵姿で捜せば知らず、そんな御註文に応ずるのが、ええ、河野、どこにだってあるものか。」
 と果は歎息して云うのであった。河野は急に景気づいて、
「何、無いことはありゃしない。そりゃ有るよ。君、僕ン許《とこ》の妹たちは、誰でもその註文に応ずるように仕立ててあるんだ。
 揃って容色《きりょう》も好《よし》、また不思議に皆《みんな》別嬪《べっぴん》だ。知ってるだろう。生れたての嬰児《あかんぼ》の時は、随分、おかしな、色の黒いのもあるけれど、母さんが手しおに掛けて、妙齢《としごろ》にするまでには、ともかくも十人並以上になるんだ、ね、そうじゃないか。」
 主税は返す言《ことば》もなく、これには否応なく頷
前へ 次へ
全428ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング