、その親たちに対して怪しからん言種《いいぐさ》だと思ってるんです。
 今君が尋問に及んだ、先生の令嬢の身許検《みもとしら》べの条件が、ただの一ケ条でもだ。河野英吉氏の意志から出たのなら、私はもう学者や紳士の交際は御免|蒙《こうむ》る。そのかわりだ、半纏着《はんてんぎ》の附合いになって撲倒すよ。はははは、えい、おい、」
 と調子が砕けて、
「母様の指揮《さしず》だろう、一々。私はこうして懇意にしているからは、君の性質は知ってるんだ。君は惚れたんだろう。一も二もなく妙ちゃんを見染《みそめ》たんだ。」
「うう、まあ……」と対手《あいて》の血相もあり、もじもじする。
「惚れてよ、可愛い、可憐《いとし》いものなら、なぜ命がけになって貰わない。
 結婚をしたあとで、不具《かたわ》になろうが、肺病になろうが、またその肺病がうつって、それがために共々倒れようが、そんな事を構うもんか。
 まあ、何は措《お》いて、嫁の内の財産を云々《うんぬん》するなんざ、不埒《ふらち》の到《いたり》だ。万々一、実家《さと》の親が困窮して、都合に依って無心|合力《ごうりょく》でもしたとする。可愛い女房の親じゃないか。自分に
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