くだろう、こんな実のある、気前の可《い》い……」
「値切らない、」
「ほんによ、所帯持の可い姉さんを。分らない旦《だん》じゃねえか。」
「可いよ。私が承知しているんだから、」
 と眦《まなじり》の切れたのを伏目になって、お蔦は襟に頤《おとがい》をつけたが、慎ましく、しおらしく、且つ湿《しめ》やかに見えたので、め[#「め」に傍点]組もおとなしく頷《うなず》いた。
 お源が横向きに口を出して、
「何があるの。」
「へ、野暮な事を聞くもんだ。相変らず旨《うめ》えものを食《くわ》してやるのよ。黙って入物を出しねえな。」
「はい、はい、どうせ無代価《ただ》で頂戴いたしますものでございます。め[#「め」に傍点]のさんのお魚は、現金にも月末《つきずえ》にも、ついぞ、お代をお取り遊ばしたことはございません。」
「皮肉を言うぜ。何てったって、お前はどうせ無代価で頂くもんじゃねえか。」
「大きに、お世話、御主人様から頂きます。」
「あれ、見や、島田を揺《ゆすぶ》ってら。」
「ちょいと、番ごといがみあっていないでさ。お源や、お客様に御飯が出そうかい。」
「いかがでございますか、婦人《おんな》の方ですから、そ
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