ら持参はさせるが、僕が結婚するに、いやしくも河野の世子が持参金などを望むものか。
 君、僕の家じゃ、何だ、女の児《こ》が一人生れると、七夜から直ぐに積立金をするよ。それ立派に支度が出来るだろう。結婚してからは、その利息が化粧料、小遣となろうというんだ。自然嫁入先でも幅が利きます。もっともその金を、婿の名に書き替《かえ》るわけじゃないが、河野家においてさ、一人一人の名にして保管してあるんだから、例えば婿が多日《しばらく》月給に離れるような事があっても、たちまち破綻《はたん》を生ずるごとき不面目は無い。
 という円満な家庭になっているんだ。で先方《さき》の財産は望じゃないが、余り困っているようだと、親族の関係から、つい迷惑をする事になっちゃ困る。娘の縁で、一時借用なぞというのは有がちだから。」
「酒井先生は江戸児《えどっこ》だ!」
 と唐突《だしぬけ》に一喝して、
「神田の祭礼《まつり》に叩き売っても、娘の縁で借りるもんかい。河野!」
 と屹《きっ》と見た目の鋭さ。眉を昂《あ》げて、
「髯があったり、本を読んだり、お互の交際は窮屈だ。撲倒《はりたお》すのを野蛮と云うんだ。」
 お蔦は湯から
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