った調子が変って、
「媒介人《なこうど》は断るぜ、照陽女学校の教頭じゃないんだから。」
十八
そうすると英吉が、かねて心得たりの態度で、媒酌人は勿論、しかるべき人をと云ったのが、其許《そのもと》ごときに勤まるものかと、軽《かろ》んじ賤《いや》しめたように聞えて、
「そりゃ、いざとなりゃ、教育界に名望のある道学者先生の叔父もあるし、また父様《とうさん》の幕下で、現下その筋の顕職にある人物も居るんだから、立派に遣ってくれるんだけれど、その君、媒酌人を立てるまでに、」
と手を揃えて、火鉢の上へ突出して、じりりと進み、
「先方《さき》の身分も確めねばならず、妙子、(ともう呼棄てにして)の品行の点もあり、まあ、学校は優等としてだね。酒井は飲酒家《さけのみ》だと云うから、遺伝性の懸念もありだ。それは大丈夫としてからが、ああいう美しいのには有りがちだから、肺病の憂《うれい》があってはならず、酒井の親属関係、妙子の交友の如何《いかん》、そこらを一つ委《くわ》しく聞かして貰いたいんだがね。」
主税は堪《たま》りかねて、ばりばりと烏府《すみとり》の中を突崩した。この暖いのに、河野が
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