せる》を取って、
「いや、真面目に真面目に、何か、心当りでも出来たかね。」


     縁談

       十六

 時に河野がその事と言えば、いずれ婦《おんな》に違いないが、早瀬はいつもこの人から、その収紅拾紫《しゅうこうしゅうし》、鶯《うぐいす》を鳴かしたり、蝶を弄《もてあそ》んだりの件について、いや、ああ云ったがこれは何と、こう申したがそれは如何《いかに》。無心をされたがどうしたものか、なるべくは断りたい、断ったら嫌われようか、嫌われては甚だ不好《まず》い。一体|恋《スウィート》でありながら金子《かね》をくれろは変な工合だ、妙だよ。その意志のある処を知るに苦《くるし》む、などと、※[#「そろべくそろ」の合字、59−2]紅をさして、蚯蚓《みみず》までも突附けて、意見? を問われるには恐れている。
 誇るに西洋料理七皿をもってする、式《かた》のごとき若様であるから、冷評《ひやか》せば真に受ける、打棄《うっちゃ》って置けば悄《しょ》げる、はぐらかしても乗出す。勢い可い加減にでも返事をすれば、すなわち期せずして遊蕩《あそび》の顧問になる。尠《すくな》からず悩まされて、自分にお蔦と云う
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