ら、是非寄越してくれと誰かが仰有《おっしゃ》るもんだから取あえず差立てたんだ。御家風を存じないでもなかったけれども、承知の上で、君がたってと云ったから、」
「僕は構わん。僕は構わんが、あの調子だもの、祖母《おばあ》さんや妹たちはもとよりだ。故郷《くに》から連れて来ている下女さえ吃驚《びっくり》したよ。母様は、僕を呼びつけて談じたです。あんなものに朋輩呼ばわりをされるような悪い事をしたか。そこいらの芸妓《げいしゃ》にゃ、魚屋だの、蒲鉾《かまぼこ》屋の職人、蕎麦《そば》屋の出前持の客が有ると云うから、お前、どこぞで一座でもおしだろう、とね、叱られたです。
 僕は何、あれは通りもんです。早瀬の許《とこ》へ行っても、同一《おなじ》く、今日は旨えものを食わせてやろう。居るか、と云った調子です、と云ったら、母様が云うにゃ、当前《あたりまえ》だ、早瀬じゃ、細君……」
 と云いかけて、ぐっと支《つか》えたが、ニヤリとして、
「君、僕は饒舌《しゃべ》りやしないよ。僕は決して饒舌らんさ。秘密で居ることを知ってるから、君の不利益になるような事は云わないがね、妹たちが知ってるんだ。どこかで聞いて来てたもんだか
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