をポンと灰に投《なげ》て、仰向いて、頬杖《ほおづえ》ついて、片足を鳶《とんび》になる。
「御馳走と云えば内へ来るめ[#「め」に傍点]組だが、」
 皆まで聞かず、英吉は突放《つっぱな》したように、
「ありゃ君、もう来なくッても可いよ。余り失礼な奴だと、母様が大変感情を害したからね、君から断ってくれたまえ。」
 と真面目で云って、衣兜《かくし》から手巾《ハンケチ》をそそくさ引張出し、口を拭《ふ》いて、
「どうせ東京の魚だもの、誰のを買ったって新鮮《あたらし》いのは無い。たまに盤台の中で刎《は》ねてると思や、蛆《うじ》で蠢《うご》くか、そうでなければ比目魚《ひらめ》の下に、手品の鰌《どじょう》が泳いでるんだと、母様がそう云ったっけ。」
 め[#「め」に傍点]組が聞いたら、立処《たちどころ》に汝の一命|覚束《おぼつか》ない、事を云って、けろりとして、
「静岡は口の奢った、旨いものを食う処さ。汽車の弁当でも試《み》たまえ、東海道一番だよ。」
 主税はどこまでも髯のある坊ちゃんにして、逆らわない気で、
「いや、何か、手前どもで、め[#「め」に傍点]組のものを召食《めしあが》って、大層御意に叶ったか
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