ら、何だろう。」
とその何だか、火箸で灰を引掻《ひっか》いて、
「僕は窮屈で困る。母様がああだから、自から襟を正すと云ったような工合でね。……
直《じき》の妹なんざ、随分|脱兎《だっと》のごとしだけれど、母様の前じゃほとんど処女だね。」
と髯を捻《ひね》る。
十四
「で、何かね、母様《かあさん》は、」
と主税は笑いながら、わざと同一《おんなじ》ように母様と云って、煙管《きせる》を敲《はた》き、
「しばらく御滞在なんですかい。」
「一月ぐらい居るかも知れない、ああ、」と火鉢に凭掛《よりかか》る。
「じゃ当分謹慎だね。今夜なぞも、これから真直《まっすぐ》にお帰りだろう、どこへも廻りゃしますまいな。」
「うふふ、考えてるんだ。」とまた灰に棒を引く。
「相変らず辛抱が[#「辛抱が」は底本では「幸抱が」]出来ないか。」
「うむ、何、そうでもない。母様が可愛がってくれるから、来ている間は内も愉快だよ。賑《にぎやか》じゃあるし、料理が上手だからお菜《かず》も旨《うま》いし、君、昨夜《ゆうべ》は妹たちと一所に西洋料理を奢《おご》って貰った、僕は七皿喰った。ははは、」
と火箸
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