す。細君じゃない。その下女にさ。
 どうです。のろかったり、妬過ぎたり、凡人|業《わざ》じゃねえような、河野さん、貴下のお婿|様《さん》連にゃ、こういうのは有りますまい。
 己が掴《つかま》ったのはその人だ。首を縮《すく》めて、鯉の入《へえ》った籠を下げて、(魚籃《ぎょらん》)の丁稚《でっち》と云う形で、ついて行《ゆ》くと、腹こなしだ、とぶらりぶらり、昼頃まで歩行《ある》いてさ、それから行ったのが真砂町の酒井先生の内だった。
 学校のお留守だったが、親友だから、ずかずかと上って、小僧も二階へ通されたね。(奥さん、これにもお膳を下さい。)と掏摸《すり》にも、同一《おんなじ》ように、吸物膳。
 女中の手には掛けないで、酒井さんの奥方ともあろう方が、まだ少《わか》かった――縮緬《ちりめん》のお羽織で、膳を据えて下すって、(遠慮をしないで召食《めしあが》れ、)と優しく言って下すった時にゃ、己《おら》あ始めて涙が出たのよ。
 先生がお帰りなさると、四ツ膳の並んだ末に、可愛い小僧が居るじゃねえか。(何だい、)と聞かれたので、法学士が大口開いて(掏摸だよ。)と言われたので、ふッつり留《や》める気にな
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