ずか》にその緑の艶《つや》を撫でた。
「私、出世なんかしたかないわ。髪結さんにでも何にでもなってよ。」
と勇ましく起直って、
「父さんがね、主税さん、病気が治ったら東京へお帰んなさいッて、そうして、あの、……お墓参をしましょうね。」
日蝕
五十一
日盛りの田畝道《たんぼみち》には、草の影も無く、人も見えぬ。村々では、朝から蔀《しとみ》を下ろして、羽目を塞いだのさえ少くない。田舎は律義で、日蝕は日の煩いとて、その影には毒あり、光には魔あり、熱には病《やまい》ありと言伝える。さらぬだにその年は九分九厘、ほとんど皆既蝕と云うのであった。
早朝《あさまだき》日の出の色の、どんよりとしていたのが、そのまま冴えもせず、曇りもせず。鶏卵《たまご》色に濁りを帯びて、果し無き蒼空《あおぞら》にただ一つ。別に他に輝ける日輪があって、あたかもその雛形《ひながた》のごとく、灰色の野山の天に、寂寞として見えた――
風は終日《ひねもす》無かった。蒸々《むしむし》と悪気の籠った暑さは、そこらの田舎屋を圧するようで、空気は大磐石に化したるごとく、嬰児《みどりご》の泣音《なくね》
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