いけ》ませんよ。」
「ほんとうに貴郎《あなた》の半分でも、父様が母様の言うことを肯《き》くと可いんだけれど、学校でも皆《みんな》が評判をするんですもの、人が悪いのはね、私の事を(お酌さん。)なんて冷評《ひやか》すわ。」
「結構じゃありませんか。」
「厭だわ、私は。」
「だって、貴女、先生がお嬢さんのお酌で快く御酒を召食《めしあが》れば、それに越した事はありません。後《いま》にその筋から御褒美《ごほうび》が出ます。養老の滝でも何でも、昔から孝行な人物の親は、大概酒を飲みますものです。貴女を(お酌さん。)なぞと云う奴は、親のために焼芋を調え、牡丹餅《おはぎ》を買い……お茶番の孝女だ。」
 と大《おおい》に擽《くすぐ》って笑うと、妙子は怨めしそうな目で、可愛らしく見たばかり。
「私は、もう帰ります。」
「御串戯《ごじょうだん》をおっしゃっては不可ません。これからその焼芋だの、牡丹餅《おはぎ》だの。」
「ええ、私はお茶番の孝女ですから。」
「まあ、御褒美を差上げましょう。」
 と主税が引寄せる茶道具の、そこらを視《なが》めて、
「お客様があったのね。お邪魔をしたのじゃありませんか。」
「いいえ
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